薬剤師・中村守男さんの薬局大革命―安定した保険外収入を得るビジネスモデルとは

薬局店頭に置き始めてわずか3カ月で100個、平均1日1個売れ続け、約2年で600個を売り上げたお薬手帳ケースを作った薬局がある。
一般の小売業の人からしたら「え、それが?」という数字だと思うが、普通の保険薬局でこの売れ行きはスゴイ快挙!

薬局スタッフのアイデアで生まれたっていうのはホントなのか? 導入のきっかけは? 販路の拡大方法は?

このビジネスの仕組みを作り出した、薬剤師の中村守男さんが余すところなく語ってくれた。

診療報酬改定に左右されない保険外収入を増やしたいと考えている薬剤師、必見だ。

患者さんの目線に立たなければ、患者さんの真のニーズは分からない

福岡県北九州市にある八幡西調剤薬局執行役員、株式会社オールウェイズメディカル取締役、そしてNPO法人こどもとくすりの代表で薬剤師の中村守男さん。

福岡県北九州市にある八幡西調剤薬局執行役員、株式会社オールウェイズメディカル取締役、そしてNPO法人こどもとくすりの代表、とさまざまな顔を持つ中村守男さん。

そんな中村さんが、薬局に来る患者さんには、潜在的ニーズがあり、その真のニーズに気づき、応えることこそが薬剤師に求められている役割なのだと確信したのは、24時間365日営業の小児科の処方箋を受ける薬局に勤務していたときのことだ。

閉店後に患者の母親から1本の電話が入った。

「熱さましの坐薬を使っても熱が38度ある。坐薬を使ってまだ2時間くらいしか経っていないけど、もう1回使って良いでしょうか」

このとき中村さんは「最低でも4時間は空けてほしいので、あと2時間は様子を見てほしい」と、薬学的に正しい知識を伝えるという対応をした。ところが、会話を続けているうちに、母親は「今すぐに坐薬を使っても大丈夫なのかどうか」という点を繰り返し確認したがることに気づいた。どうやら「使っても大丈夫ですよ」と言ってほしい様子だ。

それに気づいた中村さんは、お子さんの熱が下がらないことが心配なのだろう…と考え、「夜間の診察をしてくれる当番医を教えるので、受診してみては」と伝えたそう。ところが、この対応に対して、母親は大激怒したという。「今から出かけるから、子どもを預けなくちゃいけなくて熱を下げたいのに、病院に行けるわけないでしょう!」と一方的に怒鳴られ、電話を切られてしまったそうだ。

このお母さんの一件を受け、中村さんは反省したそうだ。

「もしかしたら、あのお母さんは夜勤の仕事とか、何らかの事情があって、ものすごく困っていたのかもしれない。事情も聞かず、その方の背景を知ろうともせず、自分が正しいと思うことを押し付けていた」

以降、常に「患者さん(生活者)の目線に立つ」ということを旨に、患者さんに向き合い、そのニーズの本髄は何なのかを考え、提供し続けてきた

薬局に来る患者さんが欲しいのは「薬」ではない、「健康」だ

「老人とドリルの話を知っていますか」

中村さんはそう尋ねながら、顧客のニーズを的確にとらえることがどういうことなのかを示す、1つの例え話をしてくれた。

ある老人が工務店にドリルを買いに来た。

「庭に穴を掘りたいからドリルが欲しい。体力がないので、出来るだけ楽に穴を掘れるものが良い」

それを聞いた工務店の店員は、

「A:安いけど重くて取り扱いが難しいドリル」
「B:値段はそこそこ。取り扱いもまあまあなドリル」「C:高価だけど、使いやすいドリル」

を提案。

老人はお金を持っていたので、Cの高価で使いやすいドリルを買った。

という話なのだが、ここで考えてほしい。
これは本当に老人のニーズを満たしているのだろうか。

老人の真のニーズは……と考えてみると、老人が本当に求めていたのは「ドリル」ではなく、「穴を作る」ことなのだと気づくはずだ。

この隠れたニーズに気づくと、こんな提案をすることが可能になる。

「D:ドリルを買うより値段はかかるけど、工務店のスタッフが穴を掘る」という提案だ。

今の薬局でも、この工務店の例えと同じことが起きていると中村さんは言う。

「患者さんは、なにも “薬” が欲しくて薬局に来るわけではありません。“健康になりたい” 。だから薬局に来ているのです。患者さんの目線に立って、患者さんが本当に求めていることは何かを常に探り、提案する。それが大切なのです」

正しい薬を患者さんにお渡しすることは、もちろん当然だ。

けれど、それに満足することなく、患者さんの真のニーズ「健康になりたい」という思いを叶えるためのプラスアルファを提供することが、薬局、そして薬剤師には必要なのだ。

10年後も、20年後も生き残る薬局であるために「薬局大革命」を巻き起こせ!

今後ますます活発化するであろうM&Aの波に飲み込まれることなく、生き残る薬局であるために必要なこと。

それは、薬局の顧客である患者さんのニーズを敏感にキャッチし、プラスアルファの提案をし続けていくこと。それには、「薬局=薬を渡すところ」ではなく「薬局=健康に関するサービスをワンストップで手に入れられる場所」へと定義を変え、生まれ変わることだ。

中村さんはどのような改革を推し進めているのだろう。

「私が勤務する八幡西調剤薬局で行っている改革の柱は2本あります。1つは、挑戦する人材の育成。もう1つは業態改革です」

人材育成に関しては「自ら考え、問題点や課題を見つけ出し提案できるスタッフ」を育てることを目標に掲げている。

「もし、弊社以外で働くことになっても、新しい薬局で存在感を発揮し、リーダーシップをとれるような薬剤師にしたい

と中村さん。

「そうすれば、ここから巣立っていった先での活躍にもつながり、ひいては業界全体の薬剤師の質の底上げに貢献できると考えているからです。ただ、これがなかなか難しかった。スタッフの意識が変化して、行動変容がみられるようになるまで6年もかかってしまいました」とスタッフを「人財」に育てることの難しさを語る。けれど、その顔には、満足そうな笑みが浮かんでいた。

スタッフの挑戦から生まれた商材を全国で販売するビジネスモデルを確立。安定した保険外収入の獲得へ

八幡西調剤薬局の大改革の2つ目である「業態改革」に大きく貢献することとなるアイデアを提案したのは、改革の1つ目で育った優秀なスタッフたちだった。

「数年前にお薬手帳の持参率が20%を切ったことがあり、手帳忘れを防ぐ方法をスタッフで話し合ったのです。そのときに、病院に持っていく診察券や保険証と一緒に、薬手帳もまとめて保管できるケースがあればいいよね、というアイデアが出て、誕生したのが、このお薬手帳ケースです」

店頭に置いたところ、初めの3カ月で100個が飛ぶように売れた。

薬局で働いている人ならわかると思うが、これはすごい数だ。念のために言っておくが、ドラッグストアではなく、保険薬局の店頭で、だ。

導入した初めの数カ月で爆発的に売れて、常連の患者さんに大方行き渡った後は、新規の患者さんにもじわじわと売れ続け、2年6カ月での売り上げは600個。平均して1日1個売れているということになる。

この数字を達成できたのは、商品自体が魅力的なこともあるが、スタッフ全員が、患者さんの健康にとってお薬手帳持参がいかに大切かを理解している点も大きい。「薬局=健康に役立つサービスを渡す場所」という意識が浸透している証拠だ。

さらに中村さんの業態改革は続く。お薬手帳ケースの販路を全国へと広げたのだ。

「全国販売に踏み切ったきっかけは、ケースを作っているメーカーさんとの何気ない電話での会話。メーカーさんは、販売する場所は雑貨屋、ターゲットは若い女性と想定してこの商品を開発したそうなのですが、薬局という場所にフィールドが移ると、お年寄りにも商品が売れてターゲットが広がることに驚いたようです。冗談っぽく “このケースを全国の薬局さんで売ってください“ と言われたのです。それを聞いて、それもそうだと……」

ぴんときた、と中村さんは言う。

すぐさま全国の薬局に対して物販ができる仕組みはないかを調べ、流通経路を持つ医薬品卸にコンタクトをとった。そして、e健康ショップというオンラインショップに商品を置く協力を得ることに成功したという。

ケースが1個売れたときの利益はわずか。当初は、大きな利益を生み出すことはなかったのだが、自分の薬局からスタートし、そして全国へとじわじわと少しずつ、種をまくように売り続けてきた結果、変化が現れたそうだ。「うちの薬局の店頭でも、このお薬手帳ケースを置きたい」という薬局さんから、数100という大きなロットでの注文が入るようになったのだ。

「これこそ、狙っていた改革です。保険収入に依存するというビジネスモデルから脱却し、診療報酬改定の影響を受けづらい物販という収入源を獲得することに成功したのです」

中村さんの薬局大革命は、まだここでは終わらない。
今後、ますます推進させていく予定だ。

「あの頃の薬局、イケてなかったよね」。
10年後に振り返ったときにそう思えるくらいの、すんごい薬局を作りたい 

「10年後、20年後に今の薬剤師や薬局を振り返ったときに、“あの頃の薬局は、イケてなかった。まだまだだった” と思えるくらいの進化を遂げた、すごい薬局をこれから作っていきたい

中村さんは語る。

現在、次々と薬局大改革を進めている中村さんが作り出す20年後の薬局はどのようになっているのだろう。未来の薬局に訪れるが楽しみだ。

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