薬剤師不足のピンチのおかげで、スタッフ全員が司令塔に急成長―門司港薬局のすごい医療事務さんたち―
眼科の処方せん受付がメーンで、白内障手術前後の点眼手順の説明、洗眼の仕方、眼軟膏の塗布方法の指導、セフメノキシム点眼液の溶かし方の実践指導など時間がかかる服薬指導も多い門司港薬局さん。
そんな門司港薬局さんにピンチが訪れた。
2人しかいなかったうちの、1人の薬剤師が退職してしまい、薬剤師1人体制となってしまったのだ。
全員が司令塔役を担当できる、ハイスペックな医療事務スタッフさんたち
今回、ヘルプに声をかけて頂き、数日間だが門司港薬局さんで勤務をさせて頂いた。
そこで、まず驚いたのは、患者さんの待ち時間は5分程度ということだ。
門司港薬局さんへは、8月に一度薬局見学でお邪魔したことがあったのだが、ひっきりなしに患者さんが訪れて忙しい印象だった。
そのときの印象から10分、15分待ちなのかと思っていたが、実際の待ち時間は5分程度だったので驚いた。
薬剤師不足でも、患者さんをお待たせせずに済む秘訣は何なのだろう。薬局長の坂下真由美さんに伺った。
「午前・午後で “司令塔” 役を1人決めて、そのスタッフがリーダーとなり、薬局の流れをコントロールするようにしたのです」
司令塔は3名の医療事務スタッフさんたちが交代で担当する。
調剤薬局では、薬局長がリーダーとなり、ほかのスタッフたちへの指示出しをすることが多いと思うが、門司港薬局さんはここが違う。
薬局長の坂下さんが患者さん対応に時間を要して、指示出しが出来ない間も、業務が一切滞ることないように、医療事務さんが薬局の状況をコントロールできるようにしたのだ。
「次、これをお願いします」「病院から●●という電話がありました」「残が少ないので1箱発注かけておきます」と、てきぱき指令を出したり、指示を仰いだりしながらスムーズな流れをキープする。
流れが止まりそうな場合には、先手を打つ。
処方せんの内容から待ち時間が長くなりそうな患者さんを判断し、その方への声掛けをするのも司令塔スタッフさんが行っていた。
待合室に置かれている衛生用品などの商品についても精通している。わたしが患者さんに問われてあたふたしていたら、スマートに対応を引き継いでくれた。
流れを保つ要となる “投薬” が滞りなく行われるように、常に心を砕いているのだ。
また、医薬品の発注業務も坂下さんの指示のもと医療事務スタッフさんが担当していた。薬の出入りも含めて、薬局のことを本当によく分かっているのだと感じた。
しかも、在籍する3名の医療事務さん全員が、このレベル。頼もしいスタッフさんたちだ。
「3名とも、もともと医療事務の経験があり、優秀なスタッフたちです。それが、薬剤師不足になってしまったこの1カ月の間で、さらにめざましくスキルアップしていきました。日々、彼女たちに助けられています」
坂下さんたちは、薬剤師さんが退職して薬剤師1名体制というピンチに陥ってすぐに、患者さんをお待たせしないための効率化を徹底したそう。
問題が起こるたびに、その場ですぐに話し合う。問題を未解決のまま持ち越すことなく、即決定、即実行してきた。わずか1カ月の間に重ねられた話し合いと工夫の積み重ねのおかげで、効率化がぐんぐん進み、待ち時間は人手不足前後でさほど変わらないレベルを維持している。
忙しくても人手不足でも、薬歴の書き残しなんてありえない!
薬剤師不足のピンチに陥った門司港薬局さんだが、人手が足りなくても、丁寧に、患者さんが納得するまでしっかりお話をしている。
特に印象的だったのが、緑内障の患者さんと、付き添ってきた奥さんの2人組への対応だ。
このご夫婦、患者さん自身はそうでもないのだが、奥さんがものすごく心配症だった。処方元のクリニックが治療目標にしている眼圧に到達しているのに、点眼治療をし続けることに対して奥さんが不安に思っている様子。
それに対し、クリニックの治療方針のことや緑内障の疾患概要、治療の重要性を説明し、不安がって何度も質問を繰り返す奥さんからの問いに根気強く、丁寧に応対していた。
さらに驚いたのが、これだけ時間をかけた投薬をしていても薬歴の書き残しが一切ないということだ。その日の薬歴はその日のうちに書き終えて、次の日に持ち越さない。
これが実現できる理由も、実は前述のハイパースペックな医療事務スタッフさんたちのおかげだ。
門司港薬局さんでは、投薬時に患者さんから聞いた話は投薬後、その場ですぐに入力する。メモをとり、あとで入力するという時間と手間を省き、薬歴の書き残しをなくすためだ。
この時間を司令塔の医療事務さんが、上手にコントロールしてくれている。
投薬後の薬剤師が、薬歴に患者さんから聞いたことを入力している時間と、患者さんの待ち時間を勘案して、ちょうどよいタイミングで次の患者さんへの投薬開始の声掛けをしてくれるのだ。
そのおかげで、わたしは患者さんから聞いた情報を忘れないうちに薬歴に記載することができたし、ときには次の患者さんへの投薬までの間に薬歴を書き終えることができた。勤務していた4日間とも、午前中の処方せんは午前中のうちに書き終えられた。
患者さんから聞いた情報はそのときに即座に入力する。
これこそが、どんなに忙しくて薬剤師不足でも、薬歴を書き残さず、しかも薬歴の質をキープする秘訣なのだと感じた。
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門司港薬局
〒801-0852
福岡県北九州市門司区港町3−12
TEL:093-322-1221
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まとめ
薬剤師不足という調剤薬局における最大ともいえるピンチを、スタッフさんたちの著しい成長へと繋げた門司港薬局さん。
今後も、きっと目覚ましい飛躍を遂げていくのだろう。
薬剤師が不足していても、それを言い訳にせず、患者さん対応の「スピード」も「質」も保てることを実現しているモデルケース。
門司港薬局さんは、そんな薬局なのだと、実際にはたらいてみて感じた。