「職業・原崎大作」、という薬剤師とはたらく

ほかの誰にもできない何かをしている人と一緒に、ワクワクする何かに挑戦するはたらき方がある。

これから保険薬局やドラッグストアではたらくことを考える薬剤師は、「どこの企業に属すか」より、「誰とはたらきたいか」を考えた方が、心地良くはたらけるのではないかと思う。

わたしは、派遣・正社員含めて薬剤師歴10年で、これまでに30カ所近い薬局ではたらいたことがある。取材に入らせて頂いた薬局を含めると、いったいどのくらいの薬局と薬剤師さんをみてきただろう……。

そんなわたしが、最近出した結論。

それは「薬剤師が楽しく、やりがいのある仕事をするための鉄則は、誰とはたらきたいか」を考えるということ。

それを確信させてくれたのが、原崎大作さんだ。

1日の始まりに、自分へのご褒美タイムを作る

みなみの薬局・けだなの薬局開設者・薬剤師の…と紹介したいところだが、その枠には収まりきらない。それが「職業・原崎大作」という薬剤師だ。

「アトムノニカイ」にお邪魔すると、コーヒーの良い香りで満たされていた。

アトムノニカイは、原崎さんが運営するコミュニティスペースのひとつ。ウィークデーの5日間、原崎さんは毎朝5時に起床し、7時から出社前の8時10分頃までの1時間をここで過ごしている。

2店舗の薬局の開設者、そしてアトム薬局のスーパーバイザーとして多忙な日々を過ごしている原崎さん。毎朝5時に起床し”アサカツ”に取り組む理由はなんなのだろう。

「インセンティブが1日のはじめにあると、その後やる気が出るでしょ」

笑いながら答えてくれた。

「睡眠時間が削れられてつらい」「眠い」といったネガティブな感情は一切起こらないのだろう。とことんポジティブな返答に、これが原崎さんなのだと納得してしまった。

窓から差し込むやわらかな朝日が気持ちよい。

1時間の過ごし方はさまざまだが、そのうちの何分かは必ず読書に充てているという。見回してみると、スペースのあちこちに多様なジャンルの本が置かれていた。

居心地が良く、リラックスできるソファ。積み重なった本の多さから、ここが原崎さんのお気に入りなのではないかと推測。

原崎さんが淹れてくれたコーヒーを頂きながら、わたしもいつの間にか、アサカツの心地良さに惹きこまれてしまった。

ある日の午後、「職業・原崎大作」さんの多面性を探ってみる

昼に再び、アトムノニカイを訪れた。
すると、利用者の姿が。

彼は内村明高さん。2人は、原崎さんが運営するもう1つのコミュニティスペース「いづろベース」で知り合ったそう。建築の仕事を手がける内村さんは、このスペースの改装や「みなみの薬局」の開設にも携わった。2人の背後にある黒板も、いっしょにDIYしたそうだ。

コミュニティスペース「アトムノニカイ」にも、「いづろベース」にも、意外なことに薬剤師をはじめとする医療従事者はほとんどいない。まったく異なる業種の人たちが集まって、スペースで会えば、ゆるゆると時間と空間を共有しているという。

「居心地のよいコミュニティスペースの鉄則は “ゆるくつながれること”。誰かが無理して企画やイベントを立ち上げる必要は全くないし、たまたま同じ時間にスペースにいたとしても、一緒に何かをしないといけないわけではない。それが、長く、居心地よくつながるコツ

なにかをしても良いし、なにもしなくても良い。
一緒に活動したいならしても良いし、しなくても良い。

「内村さんとは、たまたま一緒に仕事をすることになったけど、コワーキングスペースのように目的意識をもち、気負って通わなくても良い。本当にふらりと、生産性のないことをしに立ち寄れる場所(笑)」

実際、いづろベースでは、お互いに持ち寄ったり、共同購入した家庭用ゲームソフトの腕前をこどもの頃のように競い合ったりしているそうだ。

最近「地域」という言葉が薬剤師の仕事に頻出するようになってきたが、地域のリアルを知り、地域のニーズを知るには、いわゆる “多職種” だけではない職種の人たちとも交流し、つながりを持つことが大切なのかもしれない。

そして、このネットワークの張り巡らせ方や、カバーする範囲の広さ、情報収集源の多様さが「職業・原崎大作」を形作る要素の一つのような気がした。

残りの人生で出来ることは限られている、時間が足りない!

原崎さんは現在41歳。

アトムノニカイの黒板に描いた「人生の縮図」を見ながら、これからについて語ってくれた。

「平均寿命は80歳を超えたけど、薬剤師をしていると、それよりも前に亡くなってしまう方に出会うことがある。当たり前のことだが、平均が必ずしも自分に当てはまるとは限らず、80数年の人生が用意されているわけじゃない。そう考えると、自分が自由に動けて、仲間と一緒に楽しく何かをできる時間はわずかで限られたものなのだと思える」

仲間と楽しく過ごす時間を伸ばすため、原崎さんは「ランニングステーション」を立ち上げている最中。ランニングステーションにはランニングウェアに着替えるブース、シャワーのほか、筋トレの設備も設ける。今のうちからトレーニングをして、健康寿命を伸ばし、いつまでも活動的でいたいという考えだ。

楽しくて、ワクワクするような気持ちで、仕事も、それ以外の時間も過ごしたい。だから、自分が楽しくないと思うムダな時間をとことん削ぎ落として、効率化を考えるのかもしれない」

原崎さんにとって大切なことは、一緒にいて心地良く、幸せだと思える人との時間を大切に過ごすこと。
それは仕事にも、原崎さんと共にはたらく人たちにも共通しているように思える。

知的好奇心が満たされるような仕事を作り出したい
―みなみの薬局管理薬剤師・鎌田貴志さん

みなみの薬局管理薬剤師の鎌田貴志さん。手に持っているのは鎌田さんの趣味「切り絵」の作品。

こちらの記事にも登場して頂いた鎌田貴志さん。
以前に原崎さんと同じ職場ではたらいていたことがあり、10数年の薬剤師仲間だそうだ。

今年3月の「みなみの薬局」オープンにあたり、「また一緒にはたらこう!」と鹿児島に集結した。

「原崎さんのクリエイティビティには、いつも驚かされる。みなみの薬局の話を相談されたとき、この人と一緒にはたらいて、創造的な仕事をしていきたいし、原崎さんとならできると思った」

開局から4カ月。早速、鎌田さんはいくつかの創造的な仕事を実現している。

1つは、薬剤師なら誰でも知っているであろう「日経ドラッグインフォメーション(日経DI)」のDIクイズの執筆。

「要求されるクオリティが高くて大変だけど、楽しいしやりがいがある」という。

もう1つは、趣味の切り絵を活かしたワークショップの開催だ。地域の子供からお年寄りまで、さまざまな人たちが集まるきっかけ作りとなっている。今後、スタッフのアイデアで和菓子のワークショップも行なう予定だ。

楽しそうに仕事の話をしている原崎さん(向かって左)と、鎌田さん(右)

「今、仕事が楽しい。これからも、一緒にはたらく仲間たちと知的好奇心が刺激されるような仕事を作り出し、薬剤師や、地域で暮らす人たちに情報発信をしていきたい」。

みなみの薬局
〒892-0854
鹿児島県 鹿児島市長田町15ー8
TEL:099-225-0003

豊かな時間が、みんなの力で作り出されていく場所「けだなの薬局」
―けだなの薬局管理薬剤師・濱田知津子さん

けだなの薬局の管理薬剤師、濱田知津子さん。

患者さんの人となりや、背景を知ったうえで患者さんの薬物治療に関わっていきたい。それが、その患者さんだけのために味を入れていくということになる。だから、1日のなかで患者さんの話を聞く時間を最大化できればと、ずっと思っていた」

そう語るのは「けだなの薬局」の管理薬剤師・濱田知津子さんだ。

濱田さんも、みなみの薬局の鎌田さんと同じように、かつて原崎さんとはたらいていた薬剤師仲間だそう。

「けだなの薬局は、薬局のメンバーがとてもあたたかい。スタッフの誰もができる仕事は、薬剤師や医療事務の境なく、積極的にカバーし合っている

薬局におじゃましている最中に何人かの患者さんが訪れた。すると、薬剤師が調剤室で作業をしている間、医療事務の方が前回来局時に交わした会話をもとに、患者さんと和やかにお話をしていた。

おそらく、普段から薬剤師と患者さんの会話をよく聞いていて、患者さんの背景をよく理解しているのだろう。そういう様子が見受けられた。

患者さんの薬の準備が整うと、調剤室から濱田さんが現れて、自然と会話がバトンタッチされる。

濱田さんは、待ち時間の間に医療事務さんと患者さんがしていた話を引き継いで「コンサートに行ってきたんですね。ほっと気が抜けて疲れたりしていないですか?」と、さらりと健康状態の確認をしていた。

きっと、けだなの薬局では、同じような連携があちこちで行なわれているのだろう。

こうしたスタッフ間の円滑な連携のおかげで、濱田さんは、患者さんや地域で暮らす人たちの健康のためになる、豊かな時間を過ごせるようになったそうだ。

「薬局のスタッフみんながサポートしてくれるから、時間にも気持ちにも余裕ができた。そのおかげで、笑顔で、楽しく地域に貢献する仕事にも携われるようになった

薬局内の仕事で手一杯で、心にゆとりがなかったら、今のように前向きな気持ちで地域活動に参画することは出来なかったと思う、と濱田さんは語ってくれた。

そんな濱田さんは、現在、在宅医療や学校薬剤師の仕事のほか、地区の薬剤師会の仕事にも携わっている。

「原崎さんは、わたしの仕事のスタンスをよく理解してくれている。だから、相談に対するアドバイスが的確。そして、なにをするにも決断が早い。このメンバーではたらくのは本当に心地良い

自然と触れ合うことが好きだという濱田さん。
この夏は、富士登山に初挑戦するそうだ。

プライベートでも、仕事でもあたらしいことに挑戦する濱田さんとともに、けだなの薬局は今後どのように変化していくのだろうか。目が離せない。

けだなの薬局
〒892-0877
鹿児島県鹿児島市吉野2丁目30−12

TEL:099-243-4724

「誰とはたらくか」、で人生は変わる

今回、鹿児島を訪れ、原崎さんたちのはたらき方を見て思った。

やりがいを感じられる、生産性のある仕事をしたいなら「誰とはたらくか」を考えた方が良い。

もちろん、勤務場所、給与、福利厚生も大切だけれど、少し先の自分のことを考えたとき、未来の自分を豊かにしてくれるのは、それまでの時間を一緒に過ごしてきた「人」なのではないだろうか。